ブランディングのオムニモスーク

<基礎編>そもそもブランドとはなにか?

本日のテーマはブランドとはなにか?です。
答えを先にお伝えすると、研究者や実務家の意見は必ずしも一致していません。America Marketing Associationは「ある売り手の商品やサービスが他の売り手のそれと異なるものとするための名前・用語・デザイン・シンボルあるいは他の特徴のことである」としています。しかし、この定義でブランディングを行うとしたならば、私たちは良いブランド名やマークを考えればいい、ということになってしまいます。1990年以前は、ブランドとは単なる商品の名前やシンボルであり、どのように良い名前(ネーミング)を商品につけるかがブランドの課題と考えられた時代が続いていました。その当時であれば、ブランド名やネーミングだけで良かったかもしれませんね。しかし、昨今は外部環境も変わり、よりブランドというものが定義づけされやすくなったことも事実だと思っています。

ちなみに、de Chernatony & Riley はブランドを以下のように12の定義に分類されています。以下前提条件とそれに対しての結果です。

前提条件 結果
法律的用法 商標として偽造を防止することができる。
ロゴ 名前、シンボル、デザインなど商品を同定化し、差別化し、品質を保証する。
企業 認知できる企業名やイメージで、ステークホルダーに一貫したメッセージを届けるる。
簡便表現 すばやくブランド連想させ、情報処理を促進する。
リスク低減 期待が満たされる、約束としてのブランド。
アイデンティティ・システム ブランド名だけでなく、ポジショニングなどの要素を統合しステークホルダーなどへ明確な方向性を示す。
イメージ 消費者のマインドにあるブランドの「真実」であり、常に管理され更新し続けるもの。
価値システム 消費者の価値に見合ったブランド価値。
パーソナリティ 心理的な価値であり、広告などを通じて伝達され、差別化をし、付加価値ともなる。
 関係性  消費者のブランドへの態度や関係性。
 付加価値  非機能的な主観的意味であり、価格プレミアムを要求する。
 進化する存在  ブランドの発展に伴い変化する。

 

ブランドの語源

Keller (2013)はブランドの語源を「焼印をつける“ brandr ”」から派生したと言っています。burnedが語源という記事をあちこちで見ることがありますが、それらは間違いです。歴史を紐解くと、brandが商標という意味で使われるようになったのは、1827年以降であり、brandを焼きごてという意味で使用されるようになったのは1828年となる。つまり年代が前後するため、焼きごてをbrandの語源とすることは不可能となります。他にも理由はあるようですが、ここでは十分でしょう。

 

改めてブランドの定義

1)認知システムとしてのブランド

ここでは、「交換の対象としての商品・企業・組織に関して顧客が持ちうる認知システムとその知識」とします。ブランドは、人間の心の作用と切り離すことができません。それは脳の認知システムがもたらした規則性によるものです。

2)意味の認知システムとの関わりで重要となる概念

ブランドが商品や企業に関する認知システムといった場合、ブランドは①カテゴリー、②メタファー、③イメージ・スキーマという概念と密接な関わりがあります。

①カテゴリー
人間はカテゴリー化という能力を用いて、そこに何らかの意味を見出すことによって世界を区別しています。ブランドもカテゴリー化の作用の1つであり、単なるものとしての商品や様々なサービスからブランド化された商品やサービスを見出していきます。またカテゴリーを代表するメンバーをプロトタイプと呼びます。例えば、ハンバーガーショップは複数あるけれども典型的なものとしてマクドナルド、コーヒーショップでいうところのスターバックスはプロトタイプといえるでしょう。カテゴリー化は「階層性」と関係しています。スターバックスはコーヒーショップであるけれども、プロントはフードに力を入れていることもあり、スターバックスほど典型的なコーヒーショップとはみなされないでしょう。同様にカテゴリーの非メンバーということも度合いとして知覚されます。例えば、吉野家がコーヒーショップと非メンバーであるという具合に、です。
もう一つのカテゴリー化の大きな特性として「創造性」が挙げられます。顧客のコンテクストや背景によって、目的から派生するカテゴリーが創造されます。「くつろぎたいカフェ」ではスターバックスは典型的かもしれません。しかし、「仕事に集中するためのカフェ」であれば、ルノワールや上島珈琲が選ばれるかもしれません。マーケティング戦略において、ポジショニングが有効なのはこのためです。

②メタファー
「人生は旅である」というようなメタファーは、「お口の恋人」「歯周病と戦う」「Just Do it.」のようにマーケティングにおいて広告やブランドのスローガンとしてよく用いられています。

③ブランドで言えば、It’s a Sony.という以前用いられていたブランドスローガンは、商品にはソニー/ブランドとそれ以外のブランドがあり、ソニー・ブランドの商品には何か自分にとって良い特性がある、という意味のスキーマが含まれています。

まとめると、ブランドを用いることで、私たちの認識に以下のような結果がもたらされるということがわかります。

a、商品をブランドというカテゴリーを用いて分類する。
b、典型的なブランドを選択肢、ブランド同士を階層に分ける。
c、コンテキストによってブランドの典型性は変化する。
d、商品が生活の中で働く役割をメタファー化させて知覚させる。
e、ブランドの働きそのものを認識構造の中で把握させる。

ブランドが商品や企業についての認知システムであるというとき、ブランドは、カテゴリー化、メタファー、イメージ・スキーマなどの認知システムに従っているときといえます。

 

 

 

参考文献:ブランド戦略論(田中 洋 2017)

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